『会社とともに成長する自律した社員を育てる企業風土』~ロート製薬株式会社の「手を挙げる文化」の秘訣~と題し、20226月にロート製薬株式会社 人事総務部 副部長 山本明子様にご講演いただきました。


本日は、ロート様が考える個人と会社の理想的な関係とは、個人と会社が共成長する関係性であり、

・会社が成長して価値創出していくためには、個人が自発的にチャレンジをすることが必要

・個人が自発的にチャレンジをするために、会社として様々なチャレンジの機会を提供し、チャレンジを通じて個人の自立と成長を促す

・そのように個人が成長することで会社も成長する

このように、よい循環を生み出す関係性だそうです。このサイクルを回すために、人財・キャリア開発の各種施策を行っていらっしゃいます。

そもそもロート様が考える会社の成長とは、事業規模や売り上げ規模の拡大ではなく、「社会に価値提供できる会社であり続けるように進化すること」と捉えていらっしゃいます。今のVUCAの時代においては、経営幹部や上司が決定したことを社員が実践しているだけでは限定的な成長にしかならず、社員一人一人が会社の進む道を開拓していけると、未知で無限大の成長をすることができる、と考え、そのような価値創造ができる社員を育てていこうとされています。

 

●自発性や主体性を育むために

自発性や主体性を育むために、ロート様におかれましては、1995年頃より「さん付け運動・ロートネームで呼び合う」「オフィスレイアウトの工夫やフラットな組織」「全社横断のプロジェクト実施」「自己申告制度・ランクアップチャレンジ制度」「メンター制度」等の施策に取り組まれてきました。それぞれの詳細は以下の通りです。

・「さん付け運動・ロートネームで呼び合う」

年齢役職関係なく意見が言える関係になるために、役職呼称を辞め、「さん」付けかロートネームで呼び合い、意見をいいやすい関係になることを目指してこられました。

・「オフィスレイアウトの工夫やフラットな組織」

部屋や壁のないワイガヤオフィス(会長、社長も同じ場所、役職者は通路側に着席)で、情報伝達をスピーディーに行う、風通しのよさを実現されています。また、組織は51部門あり、すべて並列な組織だそうです。

・「全社横断のプロジェクト実施」

社内ネットワークと活躍の場を広げるために、運動会などの全社イベントやプロジェクトを開催。また、5年ごとに周年記念行事を実施し、他部門にどのような仲間がいるかを知ったり、企画立案から運営までプロジェクトメンバーで手作りをし、仕事の進め方や人の動かし方を学ぶいい機会になっているそうです。

・「自己申告制度・ランクアップチャレンジ制度」

自分の成長は自分で考えるために、常にキャリアを意識すべく、通年の自己申告制度、自ら挙手してランクアップを目指す昇格チャレンジ制度があります。幹部が全員の申告を見た上で、昇格、配置などを決めているそうです。

・「メンター制度」

メンティ自身の視野を広げ、早期の自律を促す、また、メンターの後輩指導力・育成力を養うために、メンター制度を導入されていらっしゃいました。現在は、自然発生的にメンタリングが実施されているそうです。

このような取り組みを経て、ロート様は社員の主体性、自主性を育んでこられました。

●個の力と成長をさらに引き出すために

現在、行っている取り組み等は以下の通りです。

   社外チャレンジワーク&社内ダブルジョブ

社外チャレンジワーク(副業)の目的は自身の成長のためであり、対象者は社会人3年以上の正社員、基本は休暇など就業時間外で活動し、届出制にて運営されています。社内ダブルジョブ(兼務)の目的も同じく自身の成長であり、対象者は入社3年以上の正社員で、本人自らが上司と兼務先に交渉し、人事に届出を行い、毎月執行会議にて承認を得て実施が可能になります。

実際に、社外チャレンジワークをされた方からは、「自分の視野や社外の人脈が広がった」、「事業の難しさを知り、ロートで働けるありがたさを実感した」、社内ダブルジョブをされた方からは、「仕事の効率を意識し、段取力がアップした、本業とのシナジー効果がある」との声が寄せられています。

また、副産物としての効果として、メディア効果により、外部からの副業の話が舞い込んだり、先進的で自由な社風ということで採用への効果も見えてきているそうです。

   起業家支援 明日ニハプロジェクト

社外チャレンジワークの発展形として、社内ベンチャー支援組織「明日ニハプロジェクト」が誕生しました。社外チャレンジワークを使って起業した社員が、事業を興せる人を増やしたいという想いから一念発起して会社に提案し、社内ベンチャー支援プロジェクトとして始動されました。ミッションは「社会と働く仲間のウェルビーイング向上に貢献」「事業経営を通じて商い人材の育成と輩出」だそうです。

起業に挑戦したいという「明日ニスト」を応援する、社内健康通貨を使った社内クラウドファンディングもあり、社員の自立を社員が応援する仕掛けとなっています。

   異動

異動は成長の場であると考え、1000人強の人員ひとりひとりについて経営幹部で異動を検討し、できる仕事や得意な業務、成果の確実なところに人をはめていくのではなく、ストレッチや飛躍、あるいは化学反応の可能性を重視され、異動を検討されているそうです。

   メンバーへの仕事の渡し方

業務を割当る、という考え方ではなく、テーマを渡す、あるいは各人が課題に気付き、自らがやるべきことを実践するのが理想ですが、まだまだ理解が追い付いておらず実践できていないのが現状だそうです。

   カムバック制度(アラムナイネットワーク)

転職も成長機会のひとつと考え、転職で退職した社員が戻ってくる機会を提供しています。

     定期的なWellbeingの振返り

社員自身がWellbeingでなければ、力を発揮できないという考え方のもと、半期に一度、社員一人ひとりが自身のWellbeingの振返りを行っています。Wellbeingは会社に上げてもらうものではなく、自分のWellbeingは自分で上げるもの、上げる努力をすることこそが自律へとつながっている、そのための支援を会社がやっていく、という考え方だそうです。

     Wellbeing向上にむけた支援策

学びのプラットフォーム「ロートアカデミー」を提供し、自分で自分に必要なスキル、知識を身に付けるメニューを用意しているそうです。

ロート様が目指すのは、同一で画一的なブロック塀ではなく、石垣を創るように様々な石が組み合わさった強固な塀だそうです。ダイバーシティというと、よく、外国籍や女性、といった属性で語られがちですが、個性こそがダイバーシティだと考えていらっしゃり、その個性が発揮できるように会社として支援していきたい、と語ってくださいました。

山本様、貴重なお話をどうもありがとうございました。
(文責 臼井淑子 田中慶子)